書類を取りにいく関係で(またか)、バスを乗り継いで乗り継いで過ごした1日。片道1時間半ですむはずの道のりを、危ないエリアのバスに乗り継ぎたくないばかりに、2時間半かけて3回も乗り継いだ。今日の最高気温は44度。コンクリートの照り返しに朦朧としながら、ただ目的地のみに視点をあわせひたすら無言で歩く。300mlのペットボトルの水なんてケチケチ飲んでも1時間で飲み干してしまう。たくさんの水を携帯していればそれだけで疲れてさらに水が飲みたくなるという悪循環。
午前中は何の問題もなく乗り継げたバスだったけど、帰りの午後からは待てど暮らせどバスが来ない。大方どこかでオーバーヒートしてるんだろう、忙しい大通りのバス停留所に座って、もうひとりヒスパニック系中年おばさんとともに、熱に浮かされげんなりとしながらバスを待っていたら、一台の4DWが近づいてきて、隣のおばさんに無言で車窓越しにミネラルウォーターを手渡し「ありがとう」を聞くまでもなくすぐに行ってしまった。「知り合いなら乗せていってあげればいいのに」なんて、山のような荷物をもったおばさんを横目に気の毒に思っていたら、今度はその辺のホテルで働いているっぽい服装の男がやってきて、おばさんを見るなり「ハイ」と1ドル札を手渡した。私はそのときよようやくああこのおばさんはホームレスなんだと思い当たったが、そういえば服がボロくて言われてみたらちょっと匂うかもしてないなんて、仲間はずれにしているターゲットを知ると急に手のひらを返したように態度が変わる中学生のような自分の偏見ぶりにあきれながら、でもいつもここに居るんだろうか暑いのに、とちょっと気の毒にもなった。その彼はその後もポケットの中をまさぐりつづけ、別のぐしゃぐしゃの今度は10ドル札を発見。バス賃でも用意しているのかと思っていたけど、「あーこれもあったからー」となにかのついでのようにまたおばさんに差し出し、当のおばさんは「いいよーもう、そんなにいらないよー」なんてへらへら笑って遠慮していて、おもわずちょっとそこって遠慮するとこ!?とツッコミそうに。結局それでも彼はいいからいいからと無理矢理彼女のバッグにねじ込みすぐ来たバスに乗っていってしまったけれど、私はその後も別のバスを待たなきゃいけなくて、彼女の隣に座りながら、今までホームレスに寄付などしたことなかった自分について悶々と考え込んでしまった。自分は冷たい意地悪な部類に属するということは自覚していたけれど、もしかして本当はそれを遥か上回るものすごい冷酷な部類に入るんだろうか。
それから1時間たってようやくルート105がやって来た。もう一回乗り換えないといけないのに暗くなる前に家にたどりつけるのかなーどと不安げに考えていたら、いやな予感が的中、発車10分程にしてバスが不意に停車した。ため息とともに車内はブーイングの嵐。黒人の車掌が「返金はする、苦情はやめてくれ」「俺の所為じゃないのわかるだろ、バスがボロいのも、暑いのも」などと大げさな身振り手振りで言い訳しながら「今日オーバーヒートはこれが初めてじゃない、30分ほど待てば発車できると思うから」と言いたいことをさっさと伝えて、彼はバスの外に出て煙草を吸いながら携帯でバス会社に連絡をとりはじめた。行き場のない怒りに沈む社内には15人程度、何人かはすでに別の路線に向かって歩きはじめていて、残りの乗客は家にメールしてたり、呪いごとくなにか唱えながらバスのドアを蹴り続けていたり、ひたすた暑さに耐えて待っていたり、エンジン音とブーイングが終了した社内はそれなりに落ち着いていた。私は相棒に愚痴メールを送信したりして時間をつぶしてたけど、バスは30分たった今でもエンジンがかかりそうもなく、エアコンの切れた車内は、ここは男子高の部室?と思うほど汗臭いよ!と、隣のお兄さんにぐちぐち愚痴っていたら、いやここはフリーサウナだからと汗をかきながらにっこり微笑むそのまた隣のブロンドガールに、サウナならみんなで脱ごうよぉなんて答えてる後ろの中年のしょうもない切り返しに心底ぐったり、気のきいた報復ワードを考える気力もなく、いいかげん喉が渇いてきた私は「水買いに行きたいんだけど、あと10分ほど大丈夫?」と車掌に聞いたら、大丈夫だと思う、行っておいでといったので、かばんをつかんで歩きはじめた。後ろで車掌が「戻ってくるんだよな?」と大声で聞いたので私が大きくうなづいたら、こっちへ走って駆け寄ってきて「これで買えるだけ水買ってきて、みんなに」と10ドル渡された。いいとこあるじゃんと彼を見直しながら、800mほど先のガソリンスタンドに向かう。10ドルじゃせいぜい10本、でもバスにはたぶん15人くらい。件のホームレスの件で少しばかり思うことのあった私は、ぜんぜん関係もないけど足りない人数分を払うことにした。必死のおもいで重たい15本のボトルを持ってバスに戻るとエンジンが復活していて「グッドタイミングだったね」という車掌に私は15本のボトルの入った袋をのぞかせ二人顔を見合わせてニヤリ。立ち上がり振り向きざま、みんな待ってた甲斐あったぜーと叫ぶ車掌につられるように私はボトルの入った袋を高く掲げ、大きく沸き立つ車内に背中をたたかれながら水を配ってまわった。1本たった89セントの水で大喜びなアメリカ人、そのあんまりな単細胞さが素直にうれしかった。その後車内は、一種不気味なまでの連帯感と穏やかな空気が始終流れていた。
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